亡くなられた方の預貯金を払い戻す際のアドバイス
令和元年7月1日より相続預金の払い戻し制度が開始されました。
【 関 連 業 務 】
相続手続き代行業務
戸籍謄本等お取り寄せ代行業務
法定相続情報証明制度申請代行業務
遺言書作成業務
自筆証書遺言保管制度申請サポート業務
民法の改正前は、故人が亡くなられたあとに遺産分割協議が成立するまでは故人名義の預貯金口座からの払い戻しを受けることができず、相続人がさまざまな費用を立て替えなくてはならない状態で大変不便でした。
このような不便を解消するため改正後からは、遺産分割協議前であっても故人名義の預貯金口座から一部の金銭を払い戻しができるようになりました。
今回はこの制度についての詳細をご紹介します。
本制度が開始された趣旨
本制度が開始された趣旨は、あくまで遺産分割協議が成立するまで相続人の負担を減らすための特例であり、葬儀費用や債務返済などに必要な範囲で払戻しを認めれば足りると考えられています。
本制度の利用における注意点
本制度の利用における注意点の詳細をよく把握して制度の利用が必要です。
1⃣払い戻しを受けた相続人は「遺産分割によって取得した財産」とみなされる。
払い戻しを受けた相続人は、後の分割協議時に相続分から差し引かれてしまう可能性があります。(民法909条の2後段)
※相続人の利益とみなされる払い出しの場合。
2⃣遺言によって「相続預貯金の全ては〇〇へ遺贈する。」など指定者がある場合。
遺言によって相続預貯金の指定がある場合、その指定者以外は払い戻しを受けることはできません。
※「相続預貯金の〇円は〇〇へ遺贈」の場合は、残った残高について他の相続人も払い戻しを受けることはできます。
3⃣相続放棄ができなくなる可能性がある。
相続放棄は被相続人の借金を引き継ぎたくない場合に検討します。しかし、本制度を利用して故人名義の預貯金を払い戻しを受けた場合、「相続を承認した」とみなされ相続放棄ができなくなる場合があります。(民法921条1号法定単純承認)
どのような場合に法定単純承認とみなされるかは葬儀費用についての判例があり、それによれば「葬儀費用の額が社会常識の範囲外であれば相続財産の処分(民法921条1号)に該当」し、相続放棄は認められないこととなります。
このように相続放棄を検討しなければならない場合は、非常に注意して本制度を利用しなければなりません。
4⃣遺産分割協議で紛争が起こりそうなとき。
遺産分割協議は相続人全員で被相続人の遺産をどのように分配するか決めていきます。ここでの協議がうまくまとまらないことが予想できる場合、分割協議前の払い戻しを受ける際は他の相続人への配慮に十分気を付けなくてはなりません。
本制度はそれぞれの相続人が単独で、他の相続人の同意を得ず払い戻しを受けることはできますが、払い戻しを受けた金銭の使用用途を明確にし、他の相続人へ事前に確認するなどしておいた方が安心です。
本制度を利用する方法
遺産分割協議前に故人名義の預貯金の払い戻しを受ける場合、
〇故人名義預貯金口座の金融機関窓口で払い戻しを受ける。
〇家庭裁判所へ「保全処分」を申立てて払い戻しを受ける。
2つのパターンがあります。
故人名義預貯金口座の金融機関窓口で払い戻しを受ける方法
(ポイント)
〇それぞれの相続人が単独で払い戻しを受けられます。
〇他の相続人の同意なく払い戻しを受けられます。
〇公の機関などでの手続きは不要です。
▢1つの口座から払い戻しを受けられる金額は以下の計算により算出します。
【口座にある預貯金残高 × 3分の1 × 自身の法定相続分を乗じた金額】
(例)A銀行預貯金残高900万 × 3分の1 × 配偶者法定相続分2分の1 = 150万円
▢1つの金融機関から払い戻しを受けられる金額は150万円が上限と決まりがあります。
(例)A銀行本店・甲支店など複数口座がある場合、A銀行からは150万円しか払い戻しを受けられません。
A銀行・B銀行・C銀行など複数ある場合はA銀行150万円・B銀行150万円・C銀行150万円と払い戻しを受けられます。
金融機関で払い戻しを受ける際は各種の書類が必要となります。
(注意)
必要書類については各金融機関によって異なるため、事前に各故人名義預貯金口座の金融機関にお問合わせ下さい。
・被相続人(故人)の出生から死亡時まで連続する戸籍・除籍謄本等
・相続人全員分の戸籍謄本等
・払い戻しを受ける方の印鑑証明書
この必要書類を簡略化できる制度が「法定相続情報証明制度」です。
詳細は以下の記事をご確認下さい。
法定相続情報証明制度申請代行業務
家庭裁判所へ「保全処分」を申立てて払い戻しを受ける方法
こちらの方法は、遺産分割協議がまとまらない状況等の場合に利用できる制度です。
保全処分の申立ては、「遺産分割の調停」又は「遺産分割の審判」と一緒に行わなくてはなりません。
それぞれ相続人が単独で他の相続人の同意を得ることなく申立てできます。
(保全処分とは)
裁判等は長い期間を要することが多くあります。保全処分は判決など裁判所の最終決定を得る間に急を要する事由に対処するため、あくまで仮の対処法として必要とすることを行ってもよいと裁判所に認めてもらる手続きの事です。
払い戻しされる額は、申立人の具体的事情に応じて裁判官が決定します。
(まとめ)
民法改正からは相続人の負担を軽減できるようになりました。
しかし、制度の利用についてさまざまな注意事項が沢山あります。
相続手続きはすべて同じことは無く、千差万別の違いがあり注意すべき手続きもそれぞれ違います。
ご不明な事項はお手続きに着手する前に是非ご相談下さい。