認知症を患った方の預貯金の払い戻しについて
認知症になると通帳からお金が引き出せない?
【 関 連 業 務 】
相続手続き代行業務
戸籍謄本等お取り寄せ代行業務
法定相続情報証明制度申請代行業務
遺言書作成業務
自筆証書遺言保管制度申請サポート業務
認知症患者は、2025年には700万人に上がると予想されています。
今回は認知症を発症してしまった方が銀行から預貯金を引き出せるのかどうかをご紹介します。
全国銀行協会の金融取引の代理権等についての考え方
2021年2月18日全国銀行協会が認知症を発症した方との金融取引についての考え方を発表しました。
この発表は、あくまでも取引の参考となるようまとめられたもので、以下の事項に注意が必要です。
(注意点)
〇各銀行が認知症を発症した方との取引の方法の参考となるよう取りまとめたものです。
〇会員である各銀行に一律に同じ対応を求めたものではありません。
〇個別の状況によって今回発表されたことと異なる対応が行われることがあります。
認知症患者との取引での問題となる3つのケース
1.認知判断能力が低下した本人との取引となるケース
2.任意代理人である親族との取引となるケース
3.代理権のない親族等(無権代理)との取引となるケース
1.認知判断能力が低下した本人と取引となるケースについて
〇本人や、親族等へ成年後見制度の利用を促し、本人の代理人として選任される法定後見人と金融取引を行う。
〇本人や親族等が成年後見制度の利用をどうしても希望しない又は、事情があり利用できない場合は、銀行が以下の対応を検討します。
・銀行の複数の職員等が本人と面談し、本人の意思や認知判断能力の状況を把握する。
・担当医から本人の病状などのヒアリングを受け、認知判断能力の状況を把握する。
・現在の認知判断能力の状況を示す診断書を要求し、本人の認知判断能力の状況を把握する。
銀行が以上の事項を実施するため本人や親族等へ要求し、本人の認知判断能力を検証した上で、「本人の利益に適合することが明らかである場合」に限り、本人との金融取引が行われます。
(ポイント)
原則は成年後見制度を利用しなければなりません。
どうしても成年後見制度の利用が難しい場合は、銀行が本人の認知判断能力を検証するためのさまざまな要求があり、その結果によって金融取引が可能かどうか判断しますので預金引き出しできない可能性もあります。
2.任意代理人である親族との取引になるケースについて
「任意代理人である親族」とは、1⃣本人から有効に代理権を付与された親族と2⃣銀行から有効に代理権を付与された親族であり
両方の代理権を付与された親族のことをいいます。
この場合、両方の代理権の付与を受けている任意代理人は、本人のために銀行との金融取引を行うことができるとしています。
但し、本人の認知判断能力が低下した後の取り扱いについては銀行によって判断が分かれる可能性があります。
本人の認知判断能力が正常なうちに取引銀行へ確認することをおすすめします。
ちなみに、本人の認知判断能力が低下した場合、士業(弁護士・司法書士・社会福祉士)などが任意代理人に就任している場合は、倫理上の観点から成年後見制度へ移行して法定代理人が選任され金融取引を行います。
(ポイント)
本人の認知判断能力が正常なうちに取引銀行へ相談し、親族等が本人と銀行からの代理権を付与されている状態を作っておく。
(注意)
本人の認知判断能力が低下した状況になった場合の対応は銀行によって異なるため、認知判断能力低下時の銀行の対応も確認する必要がある。
※民法上の代理権については、本人の認知判断能力が低下しても影響を受けず、有効な代理権として扱われます。
1代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
(1)本人の死亡
(2)代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
3.代理権のない親族等(無権代理人)との取引となるケースについて
1.の考え方と同様
〇本人や、親族等へ成年後見制度の利用を促し、本人の代理人として選任される法定後見人と金融取引を行う。
〇本人や親族等が成年後見制度の利用をどうしても希望しない又は、事情があり利用できない場合は、銀行が以下の対応を検討します。
・銀行の複数の職員等が本人と面談し、本人の意思や認知判断能力の状況を把握する。
・担当医から本人の病状などのヒアリングを受け、認知判断能力の状況を把握する。
・現在の認知判断能力の状況を示す診断書を要求し、本人の認知判断能力の状況を把握する。
銀行が以上の事項を実施するため本人や親族等へ要求し、本人の認知判断能力を検証した上で、「本人の利益に適合することが明らかである場合」に限り、本人との金融取引が行われます。
(ポイント)
原則は成年後見制度を利用しなければなりません。
どうしても成年後見制度の利用が難しい場合は、銀行が本人の認知判断能力を検証するためのさまざまな要求があり、その結果によって金融取引が可能かどうか判断しますので預金引き出しできない可能性もあります。
(まとめ)
今回は認知症を発症された方の預金引き出しについて、全国銀行協会の取り扱いの指標をご紹介しました。
認知症を発症された方の預貯金については原則、成年後見制度を利用しなければならないことがわかります。
預貯金以外の金融商品(投資信託等)は更に厳格な手続きを要することとなります。
本人の預貯金は、生活費や治療費など急に必要となることが想定でき、引き出すことができない状況となると大変困ります。
成年後見制度を申立てしても約2カ月程度の手続期間があります。
このような状況に陥る前である、本人の認知判断能力が正常なうちに有効な手続きを検討していることが必要です。
(成年後見制度について)
「成年後見制度」は民法で定められた制度で、家庭裁判所での手続きが必要になります。
成年後見の手続きを行うと、認知判断能力が低下した本人の為に法定代理人が選任されます。
法定代理人は家庭裁判所が決定し、本人の親族や弁護士・司法書士・社会福祉士が選任されます。
これまでの経緯上、本人の家族が選任されたケースは約10%ほどで、多くは弁護士・司法書士・社会福祉士のいずれかが選任されています。
弁護士・司法書士・社会福祉士のいずれかが選任されると報酬が発生し費用がかかります。
この費用自体も家庭裁判所が決定することとなり、月々約2万円~3万円が多いそうですが、事案によって差異があります。
このように費用が必要なことと、第3者へ家族の資産を委ねることに抵抗感あり、なかなか成年後見制度の積極的な活用がされていません。
しかし、全国銀行協会の考え方では「原則、成年後見制度の利用を促す」となっています。
やはり認知判断能力が正常なうちにそれぞれのご家族の状況に応じた対応策を検討する必要があります。
【相続に関連する記事】