相続法等の改正のポイントのご説明
高齢化の進展など社会環境の変化に対応するため約40年ぶりに大きな見直しとなりました。
【 関 連 業 務 】
相続手続き代行業務
戸籍謄本等お取り寄せ代行業務
法定相続情報証明制度申請代行業務
遺言書作成業務
自筆証書遺言保管制度申請サポート業務
相続法の改正の主な内容
- 自筆証書遺言に添付する財産目録書がパソコン等での作成が可能となりました。
- 遺産の分割をする前に被相続人(故人)名義の預貯金の一部払い戻しができるようになりました。
- 被相続人(故人)の介護や看病で貢献した親族の金銭要求が可能となりました。
- 自宅の生前贈与が特別受益とみなされないこととなりました。
- 遺留分に関する権利の請求方法が簡便化されました。
- 「配偶者居住権」が創設されました。
- 「配偶者短期居住権」が創設されました。
- 法務局で自筆証書遺言の保管ができるようになりました。
1.自筆証書遺言に添付する財産目録書がパソコン等での作成が可能となりました。
(平成31年1月13日施行)
これまでは自筆証書遺言は添付する財産目録書も含め、全文を自書して作成する必要がありました。その負担を軽減するため、遺言書に添付する財産目録書については、パソコン等で作成できるようになりました。通帳のコピーや不動産登記事項証明書を添付することも可能です。
注意が必要なのが、財産目録書は、各ページには必ず、署名と押印をすることが義務づけられており、署名押印のない財産目録は無効とされるので注意しましょう。
2.遺産の分割をする前に被相続人(故人)名義の預貯金の一部払い戻しができるようになりました。
(令和元年7月1日施行)
これまでは、遺産の分割が終了するまでの間は被相続人(故人)の預貯金の払い戻しを受けることはできませんでした。
しかし、実際には配偶者の生活費・葬儀費用・債務の弁済などですぐにでもお金が必要なことが多くあります。
このような相続人の不便に対応できるように、遺産分割前でも預貯金債権のうち一定額については家庭裁判所の判断を経ずとも払い戻しすることができるようになりました。
3.被相続人(故人)の介護や看病で貢献した親族の金銭要求が可能となりました。
(令和元年7月1日施行)
相続人ではない親族(例えば長男の妻など)が被相続人(故人)の介護や看病をするケースがありますが、介護や看病をした長男の妻は被相続人(故人)の遺産の分配にあずかることはできず、不公平であるとの指摘がされていました。
今回の改正では、このような不公平を解消するために、相続人ではない親族も、無償で被相続人の介護や看病に貢献し、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対し、金銭の請求をすることができるようにしました。
4.自宅の生前贈与が特別受益とみなされないこととなりました。
(令和元年7月1日施行)
これまでは、被相続人(故人)が生前に配偶者に対して自宅を贈与した場合、遺産を分割する計算上は「遺産を先に渡したもの」として扱われていました。
この結果、遺産の相続時に贈与した自宅の価格分を配偶者の相続分から差し引かれることになってしまいました。
今回の改正によって、自宅についての生前贈与については、計算上、相続財産より除外して残った遺産についての分割が可能となり、配偶者の相続分の減少を防ぐことができるようになりました。
但し、法律上の婚姻期間が20年以上の夫婦でなくてはなりません。
5.遺留分に関する権利の請求方法が簡便化されました。
(令和元年7月1日施行)
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている「相続できる財産の最低保障」のことです。(民法1042条1項)
相続時、遺言等の内容によって、自己の法定相続分を超えた遺産の分配方法が指定されていた場合など、超えた部分を取得する法定相続人に対して補填するよう求めることができる権利です。
この権利を相続法の改正前は「遺留分減殺請求権」と呼んでいました。
令和元年7月1日改正後より、「遺留分侵害額請求権」と呼ばれます。
改正前は現物の返還が原則でした。
現物返還のデメリットとして、不動産などの共有状態となりトラブルが多く発生することがありました。
改正後は使い勝手の良い形となりました。
「遺留分侵害額請求権」は、純然たる金銭債権として規定しました。(民法1046条1項)
更に、請求を受けた相手方が金銭での清算ができない事情がある場合は、当事者間で合意できれば現物による代物弁済も可能としました。
【遺留分計算方法の「生前贈与(特別受益)を受けたとみなされる期間」も限定されました。】
遺留分を計算する際は、原則として以下の計算式によって求めます。(民法1043条1項)
相続開始時点の財産額 + 遺贈額 - 相続開始時点の負債額
改正前は、生前に被相続人(故人)から贈与された財産も無制限に「遺贈額」として相続発生時点で持ち戻す(相続財産に戻す)こととなっていました。
しかし、どこまでも遡って調査することは不可能に近いため、今回の改正より「相続開始前10年以内」と限定されました。
但し、特別受益となることを贈与者と受贈者が遺留分権利者へ損害を与えることを「共」に知っていた場合、10年以内に限定されないこととなり、法改正前と同一の遺留分計算方法となります。(民法1044条1項後段)
※特別受益とは、被相続人(故人)が生前に、相続人に対して行った贈与のことで、以下のいずれかのことをいいます。
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
6.配偶者居住権が創設されました。
(令和2年4月1日施行)
配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身又は一定期間、その建物を無償で使用することができる権利です。
相続が開始すると被相続人の遺産すべてが遺産分割の対象となります。
これまで被相続人と一緒に暮らしていた建物を配偶者が取得すると、金銭等の他の遺産は他の相続人が取得するケースが多く見受けられていました。
そうなると配偶者は住む場所は確保されても生活費が不足して不安な状況になります。
そこでこのような配偶者の不利益が生じないよう考慮されて創設されました。
配偶者は配偶者居住権を取得すれば、これまで住んできた自宅に住み続けることができ、金銭等の遺産をより多く取得できるようになり配偶者のその後の生活の安定を図ることができます。
具体的には建物についての権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」に分けて遺産分割の際に配偶者が配偶者居住権を取得し、他の相続人が「負担付きの所有権」を取得します。
配偶者居住権は、自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり人に売ったり、自由に貸したりすることができない分、評価額を低く抑えることができます。
※配偶者居住権を取得した場合、その財産的価値相当額を相続したものとして扱われます。
【配偶者居住権についての「価値」についての計算方法の詳細】
https://www.moj.go.jp/content/001263589.pdf
7.配偶者短期居住権が創設されました。
(令和2年4月1日施行)
配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合に遺産の分割がされるまでの一定期間、その建物に無償で住み続けることができる権利です。
配偶者短期居住権は、被相続人の意思などに関係なく、相続開始時から発生し、原則として、遺産分割により自宅を誰が相続するかが確定した日(その日が相続開始時から6か月を経過する日より前に到来するときには、相続開始時から6か月を経過する日)まで、配偶者はその建物に住むことができます。
また、自宅が遺言により第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には、その建物の所有者が権利の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日まで、その建物に住むことができるよう配偶者が保護されます。
8.法務局で自筆証書遺言の保管ができるようになりました。
(令和2年7月10日施行)
自筆証書遺言の保管方法の多くは自宅で保管されていました。
せっかく作成していても紛失してしまったり、廃棄してしまったり、書き換えられてしまったりするなどの問題が生じていました。
このような問題が起こることを防止し、自筆証書遺言をより利用しやすくするため、法務局での保管ができる制度が創設されました。
保管された自筆証書遺言は、被相続人(故人)の死亡後、相続人へ保管してあることの通知が行われる制度も用意されています。詳しくは以下の記事をご確認ください。
自筆証書遺言保管制度申請サポート業務
(まとめ)
今回は大まかに改正された事項をご紹介いたしました。
改正された事項はそれぞれ各種の条件が細かく付されています。
権利を主張することによって不利益にならぬよう細心の注意が必要です。
今回ご紹介した改正点について、ご不明な点等ございましたら是非ご相談下さい。
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